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高松高等裁判所 平成4年(ネ)371号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

理由

第一  申立て

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人長崎周一郎(以下「控訴人周一郎」という。)に対し、別紙物件目録記載(一)の各土地について、高知地方法務局安芸支局昭和五四年一二月二五日受付第八七六八号根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

3  被控訴人は、控訴人長崎久子(以下「控訴人久子」という。)に対し、別紙物件目録記載(二)の各土地について、高知地方法務局安芸支局昭和五四年一二月二五日受付第八七六八号根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文第一項と同旨

第二  事案の概要

本件は、確定根抵当権の被担保債権の時効消滅を理由に、根抵当権設定登記の抹消登記手続を求める事案である。

一  争いのない事実

1  控訴人周一郎は、別紙物件目録記載(一)の各土地を、控訴人久子は、別紙物件目録記載(二)の各土地を所有している。

2  昭和五四年一二月四日、被控訴人との間で、控訴人周一郎は、別紙物件目録記載(一)の各土地につき、控訴人久子は、別紙物件目録記載(二)の各土地につき、極度額金一九〇〇万円、債権の範囲保証委託取引、債務者安芸輝郎、根抵当権者被控訴人とする契約を締結し、控訴の趣旨2・3記載の根抵当権設定登記(以下「本件登記」という。)を経由した。

3  被控訴人は、平成四年四月三日、2の根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)に基づき、高知地方裁判所安芸支部に、別紙物件目録記載(一)・(二)の各土地の競売申立てをした(平成四年(ケ)第一〇号)ので、同支部は、同月七日、不動産競売開始決定をした。そして、同月九日、本件各土地につき差押えの登記がされ、同年六月一三日、安芸輝郎に不動産競売開始決定が送達された。

4  右の請求債権は、安芸輝郎が被控訴人との間の保証委託取引に基づいて被控訴人に対し負担する別紙請求債権一覧表記載の債権であり、高知地方裁判所昭和五七年(ワ)第一六号求償金請求事件の昭和五七年四月一八日確定判決によつて確定した債権である。

二  争点

前記一4の債権(以下「本件確定債権」という。)が時効消滅したか否かにあり、これに関する双方の主張は、以下のとおりである。

1  控訴人らの主張

本件確定債権の消滅時効は、判決が確定した昭和五七年四月一八日から進行し、一〇年後の平成四年四月一八日の経過をもつて完成するところ、債務者安芸輝郎に対し不動産競売開始決定が送達されたのが平成四年六月一三日であるから、右送達は時効完成後のものであつて、中断の効力を生じない。控訴人らは、本訴において右時効を援用する。

2  被控訴人の主張

(一) 債務者安芸輝郎は、昭和五七年一二月二二日、控訴人両名が原告、被控訴人が被告の高知地方裁判所昭和五六年(ワ)第六〇〇号根抵当権設定登記抹消登記手続請求事件において証人として尋問された際、本件確定債権の存在を肯認する供述をしたから、主債務者による債務承認により時効が中断した。

(二) 前記一3の不動産競売開始決定が債務者安芸輝郎に対し送達されたことにより、本件確定債権についての消滅時効中断の効力は、時効期間満了前である競売申立時の平成四年四月三日にさかのぼつて生じた。

第三  争点に対する判断

不動産執行による金銭債権についての消滅時効の中断の効力は、債権者が執行裁判所に当該金銭債権について不動産執行の申立てをした時に生ずるものと解するのが相当である。けだし、民法一四七条一号、二号が請求、差押え等を時効中断の事由として定めているのは、いずれもそれにより権利者が権利の行使をしたといえることにあり、したがつて、時効中断の効力が生ずる時期は、権利者が決定の手続に基づく権利の行使にあたる行為に出たと認められる時期、すなわち、差押えについては債権者が執行機関である裁判所又は執行官に対し金銭債権について執行の申立てをした時であると解すべきであるからである(動産執行の場合につき最高裁判所昭和五九年四月二四日第三小法廷判決・民集三八巻六号六八七頁、不動産執行の場合につき大審院昭和一三年六月二七日・民集一七巻一四号一三二四頁参照)。なお、右の時効中断の効力を生ずるためには、当該差押えが効力を生ずることを要することはいうまでもない。

これを本件についてみると、前記争いのない事実によれば、不動産競売開始決定が債務者安芸輝郎に送達されたのは平成四年六月一三日であるが、競売開始決定に基づく差押えの登記は同年四月九日にされているから差押えの効力は同日生じたものであるところ、被控訴人による競売申立てが高知地方裁判所安芸支部にされたのは時効期間満了前の同月三日であるから、本件確定債権に対する時効中断の効力は有効に生じたものと認められる。

被控訴人の主張(二)は理由がある。

第四  結論

よつて、本件確定債権が時効消滅したことを前提とする控訴人らの請求は失当というべきであるから、控訴人らの請求を棄却した原判決は結論において相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安国種彦 裁判官 渡辺貢 裁判官 田中観一郎)

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